【地酒解体新書第18回】古酒なのか、劣化なのか。ウチに置いたままの酒って、どっち?
地酒ファン必見のおもしろ雑学コンテンツ。 知っているとちょっと使える地酒よもやま話&雑学集。 地酒について、知っていそうで知らなかったこと・知らなかったけど人に聞けなかったこと・知ってたけど「ほんとに!?」と疑っていたものなどまわりの人にちょっと話したくなる地酒にまつわる雑学をを地酒博士が徹底レクチャー!これを読んで、地酒の雑学王になろう!
いつまでも、うまいと思うな、ウチの酒!
普段からの御質問で意外に多いのが、「古くなった日本酒は、飲めるの?」のひと言。
この「古くなった」というのも色々ありますが、一番多いのが「ギフトで戴いて、そのまま押入れの天袋で2年」なんていうパターンで、自分で買ったまんま忘れてたってのは意外に少ないようです。
もっとも小生の友人で、飲んだあとに一人暮らしの友人のアパートに転がり込んで、腹が減ったから冷蔵庫にあったチーズを食べようとしたら妙な香りがする。念のため賞味期限を見たら昭和だった・・・なんて例もありますから、気をつけるに越したことはありません。まちがっても、“貴腐香”なんて早合点しないように。(笑)
さて、本題です。
結論から申し上げると、お酒には賞味期限の表示義務はありません。
製造年月を表記すれば良く、裏返せば「いつ作ったか」は表示しますが、期限は無いわけですから、いつまで経っても飲めるのです。
腐って飲めなくなるとか、古くなって飲んだら害になるということは、まずありません。 酒造りの言葉として“腐造(ふぞう)”という言葉はありますが、これは乳酸菌や酢酸菌などが異常に増えてしまうことで、いわゆる腐ってしまった“腐敗”とは異なります。
では、古くなったお酒はどうなるかと言えば、これも千差万別で、“長期熟成酒”として美味しくなるものや、ただ単純に風味が落ちて美味しくなくなってしまうものまで、いろいろなのです。
良く消費者の会などで説明するフレーズをランダムに並べてみますと、
・古酒には2種類あって、作ろうとして作った長期熟成酒と、(売れなくて結果的に)なっちゃった古酒がある。
・良い酒は良い古酒になることが多いが、良くない酒を置いといても、良い古酒になることは少ない。
・長期熟成の期間の保存方法としては、氷温から通常の冷蔵や、樽貯蔵やセラ保管などがある。いろいろ試されているものの、高価なお酒を通常の倉庫に置いていたら良い古酒になった例まであり、どのようなタイプのお酒はどのように保存するとどのような古酒になるかという理論は、いまだ確立されていない。
などがあります。その上で、
・基本的には、お酒は新しい方がおいしい。
・ただし、吟醸酒などは少し寝かせてからの方が美味しい場合が多くある。
・古くなって風味が落ちたお酒は、煮酒に使うと美味しくいただける。と、説明しています。
煮酒に使うなら、ここがポイント!
この煮酒については余談があり、吟醸酒より普通酒の方が板前さんには評判が良いようです。
酒粕と同じく、吟醸ものでは含み味が希薄なんだとか。
もっとも古くなったお酒を使う場合は選択肢があるわけではなく、その時に残っていたお酒を煮酒に使えば良いと思います。
欲を申さば、例えば瀬戸内のお酒は、瀬戸内の白身魚の煮物などに。土佐のお酒や北陸のお酒などはブリ大根などにお使いいただきたい。その地の食材には、その地のお酒を・・・ささやかながら、料理のうま味を生かすはずです。
ウチの煮酒なんかには金箔が入ってたこともありますけど、これは失敗。
小芋の煮っころがしに金粉が入りますと黒ずんでしまい、チットもきれいでないばかりか、ゴミがひっついているように見えますので、ご用心を!
定説あり、俗説あり、じゃあ「古い酒」って何だろう?
保管の方法も研究が進んでいるようですが、「絶対に、氷温でなければならない!」という意見からの“常温説”。
「振動させないことが大切!」という意見から、“日に一回倒立させる説”。
光を防ぐということには異論がないようですが、「新聞紙に包むことが大切!」
"で、何故か“チラシ広告ではダメな説”などの俗説ものもあって、これは皆さん首をかしげるところでしょう。
ちなみに、梅錦の杜氏の山根福平は現代の名工として表彰されており、日本一の杜氏だと自負しておりますが、酒のことを女性に例えるのが巧く、「早くに老け込んだ顔していたが、元が美人だから良い年増になった酒」とか、「とんだジャジャ馬だったが、年を経て落ち着いた魅力が出てきた酒」とか、「最初から背筋の通ったツンとすました奴だったが、最近は包み込むような優しさが備わって通りの良い奴になった」などと表現するのが上手です。"
この技量は、当人の女性をもてなす面での長年の熟成によるものであり、劣化もなく、ますます極上の魅力を醸してるようです。(笑)
もっとも、杜氏の言う古酒とはタンクでの貯蔵であり、壜詰め後の劣化とは全く別物です。
消費者の方にとっての「古くなった酒」は、壜詰め後の劣化となるのです。
さて、そこで次回のテーマは、「お酒の品質劣化の要素は3つで 1.光、2.空気、3.温度であり、じゃあ、土間が何故イイのか?押し入れの天袋が何故ダメなのか?一旦栓を開けたものは何故劣化が早いの?」に進展!
先人たちの知恵なども紐解きつつ、お話しします 。
地酒解体新書について
本連載は、国分グループ本社株式会社と全国の有力地酒蔵元との協力により運営して運営する「地酒蔵元会」ホームページ内に掲載されている記事を転載しております。解体新書の他にも地酒に関する様々な情報が記載されておりますので、ぜひアクセスしてみてくださいね。
※地酒解体新書は2008年に公開された記事となります。現在とは異なる表記がある場合もございますのでご了承ください。
https://www.kuramotokai.com/
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