【地酒解体新書 第4回】吟醸酒って本当にいいお酒なの?
地酒ファン必見のおもしろ雑学コンテンツ。 知っているとちょっと使える地酒よもやま話&雑学集。 地酒について、知っていそうで知らなかったこと・知らなかったけど人に聞けなかったこと・知ってたけど「ほんとに!?」と疑っていたものなどまわりの人にちょっと話したくなる地酒にまつわる雑学をを地酒博士が徹底レクチャー!これを読んで、地酒の雑学王になろう!
主役を演じるのはやっぱりお米です。
「いったい地酒はどういうふうに分類されるのか、そして、値段の違いはどこにあるのか」が、今回のテーマです。2回目までのゼミナールで、昔あった級別には嗜好性にあまり意味のないことは知って頂きました。また、「甘口・辛口」という言葉に躍らされてはいけないこともお話ししました。そして、地域の食文化と密接につながっているのが地酒だということもお解りいただけたと思います。
では、全国各地で造られる地酒の味そのものの違い、そしてその値段の違いは、いったい何に起因しているのでしょうか。そこには、やはり米という主役が演じる妙味があります。原料米の違いによって味がどう変わるのか。精米歩合によってお酒はどうなるのか。そしてそれらが値段とどう絡んでくるのか。今日はそんな内容の序章からお話しを始めましょう。
お米をとぐことは、きれいなお酒をつくること。
では最初に「1万円のお酒って美味しいですか?」という問題について考えてみたいと思います。
結論から言いますと、これは好みの問題になってくるようです。
おおむね1升瓶で3000円までは、値段と味は比例的に向上すると考えて良いでしょう。なぜかといいますと、お米を何%まで精白して使うかによってお酒のきれいさが違ってくるからです。ご飯を炊く時にお米をとぎますが、その際にも約7%はといでいるらしいのです。なるほど、美味しいご飯には「とぎ」が肝心という言葉も、地酒の味同様に頷けるところですね。
かつて、臼を使って米を手挽きしていた頃から、酒造りでは70~75%精白が通常でした。つまり25~30%を糠として捨て、残った70~75%に削ったお米で酒を造っていたのです。これをさらに60%くらいまでに高めていくことで、より美味しさが生まれてきました。逆にいえば、ここまでは、米を研ぐことでどんどん味が良くなるということなのですね。つまりは雑味がなくなって、きれいなお酒になるということ。この内容で2500円~3000円といった値段帯がほぼ提示されるのですが。では、60%を超す精米になるとどうなるのでしょう。
これは、例えれば「錦鯉の世界」と同じと考えていただくと解りやすいでしょう。錦鯉も5万円くらいまでは、値段と見た目とが比例します。が、それ以上のものになってくると、素人には違いが判らなくなってくる世界だと考えても、そう間違ってはいないでしょう。お酒も同じだと思うのです。ただ、メーカーのコストでいえば、60%の酒と30%のお酒では、同じ100トンの米を使うにしても、一方は60トンを原料として使い、もう一方は30トンしか使えないわけだから、原価が違ってくる。当然、30%のお酒が高くなるわけですね。
いいお酒の代名詞として「YK35」がなぜ謳われるのでしょう。
「YK35」という言葉があります。これは、いわゆる新酒鑑評会に受かりやすいお酒を総称した言葉で、山田錦(Y)、9号酵母or九州酵母or香露酵母(K)を使って、35%精白で酒を造ることを意味しています。また、山田錦はもっとも精白の違いがわかりやすい米で、削れば削るだけ、きれいになっていくタイプの米です。だから鑑評会には山田錦を35%精白したお酒で勝負しようとする訳です。しかし、鑑評会で受かったお酒がはたして美味しさのすべてを網羅しているかというと、そこには疑問も生まれるのです。
前回も申し上げたように、美味しさの基準をどこに求めるかは、それぞれの人の嗜好によって違ってくるはず。例えば鑑評会の審査員の先生というのは、1日にものすごい回数の利き酒をしますから、これだけのお酒を鑑定するとなると、ちょっとでもクセのあるお酒はダメなのですね。プロ中のプロであるがゆえに、きれいな味であることがすべてなのです。つまり、きれいなお酒というのが美味しさの基準になっている人にとっては、鑑評会で受かったお酒は間違いなくきれいですから、YK35のお酒がフィットするのでしょう。
きれいなお酒には、飲み方があります。
でも、たとえば刺し身の好きな人なら、こうしたきれいなお酒はやや敬遠すると思うのです。脂の乗った旬の刺し身に、大吟醸は馴染みません。なぜかと言えば、お互いの香りが喧嘩をしてしまうからです。
一般にYK35の酒は華やいだ香りがして、味もしっかり。言わば、すっと抜ける味がします。でも、そういう抜けのいい、キレのいいお酒が美味しいと思われるのは一口目・二口目あたりでしょう。もし、晩酌にこんなお酒を毎日飲んでいたら、費用もたまったものではありません。こうしたお酒は、酒だけを酌み交わして「旨いねぇ」と2人で1時間に1合程度を飲むのがちょうど良いのです。いろいろな味覚に舌つづみを打ちながら、お酒を飲もうよという時には、YK35が必ずしも旨いお酒とはいえないと思うのです。
それなら、鑑評会って何なの、金賞受賞酒ってどうなのということになりますが、このあたりは、次回でお話しさせて頂くことにしましょう。
地酒解体新書について
本連載は、国分グループ本社株式会社と全国の有力地酒蔵元との協力により運営して運営する「地酒蔵元会」ホームページ内に掲載されている記事を転載しております。解体新書の他にも地酒に関する様々な情報が記載されておりますので、ぜひアクセスしてみてくださいね。
※地酒解体新書は2008年に公開された記事となります。現在とは異なる表記がある場合もございますのでご了承ください。
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