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【地酒解体新書第20回】一度飲んだら忘れられない!ふなくちの魅力

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地酒ファン必見のおもしろ雑学コンテンツ。 知っているとちょっと使える地酒よもやま話&雑学集。 地酒について、知っていそうで知らなかったこと・知らなかったけど人に聞けなかったこと・知ってたけど「ほんとに!?」と疑っていたものなどまわりの人にちょっと話したくなる地酒にまつわる雑学をを地酒博士が徹底レクチャー!これを読んで、地酒の雑学王になろう!

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殺菌しない「生」のうまさ、知っていますか?


小生、昔、ジュースや清涼飲料水の関連の仕事をしていた時に、グレープフルーツの生ジュースの充填(壜詰め)の技術者への説明の場に立会うことがありました。
大きな工場内に入っていくと、フィラーなどと言うオドロオドロシキ機械にノズルと称するステンレスの管が何本も突き刺さっていて、その管の一本一本に壜口 が挿入されるようにジュースの空壜が持ち上げられていきます。
管から流れ出たジュースが満杯になると再び壜が引き下げられ、スグにキャッパーと言うフタッコさを填め込む機械に巻き込まれて、次々と中身入の壜ジュースが出来上がっていくのですが、これが一分間に900本も目の前のコンベアを流れていく様は圧巻なんでございます。

「1本どうぞ」なんて言われましても、おっかなくて手も出せません。

それでも生来イジきたないことでは負けませんから、どこかでベルトコンベアー上の壜のスピードが落ちる所があるだろうと探しますと、探せばあるんですな、これが。
パストライザーなる、それ自体が戦艦ヤマトの如き威容を誇る、鉄板のテント倉庫のような機械の入り口で ジュース壜がユックリとした動きになり始めます。
そこでサッと1本パチッて、がぶ飲みしたグレープフルーツジュースの美味しかったこと。
決してスイカ泥棒したアトの美味しさとは違って、ジュースそのものが美味しかったのです。
加熱した方が美味しいものは、世の中に沢山あります。

焼き肉や焼き魚と言えばそれまでですが、肉・魚には刺身というものがありますな。ですから、加熱した方が美味しいかどうかは、好みの問題になります。
ちなみに、ジュースは生の方が圧倒的に美味しいと思います。
いろいろなものをブレンドして美味しくしたジュースもありますが、果物の単体 のジュースは「生」の方が美味しいと思います。

では一般市場での壜入りジュースには、なぜ生ジュースが少ないんでしょうか。
敢えて極論すれば、ナゼわざわざ不味くするために加熱するのでしょうか。
これは、「殺菌」するからなんですね。

ふなくちの酒と生酒は、どうちがうのか? ふなくちの酒と生酒は、どうちがうのか?


さて、日本酒を見てみましょう。新潟の菊水酒造さんの大ヒット商品に「ふなくち」という商品があります。

梅錦でも、商品によっては今も使っていますが、昔は、お酒を搾る時に「ふね(槽)」という、大きさも形も正しく手漕ぎのボートとそっくりのものに、「もろみ」の入った袋を積み重ねて、上から圧力を加えてお酒を搾りました。
この搾ったお酒がチョロチョロ流れ出る所を、「ふなくち」と言います。要は菊水さんの「ふなくち」という商品名は、搾りたてのお酒の出てくる場所の部位名なんですね。
そして、この「ふなくち」から出てきたばかりのお酒は加熱殺菌も濾過もしてませんから、牛乳流に言えば「成分未調整」なわけで、フレッシュでいかにも「搾りたて」っていう美味しさを実感します。

一方で、「生」という言葉の定義の問題があります。
以前にも触れたと思いますが、例えばビールの場合、一般流通している大手さんの生ビールには酵母は残っていません。これは、濾過して酵母を取り除いてしまうからです。
それでも加熱殺菌してないのですから「生」ですし、酵母は残っていないので、常温流通でも「生ビール」の美味しさを届けられるのです。

それに比べて、地ビールなどで酵母がそのまま残っているものは冷蔵輸送しなくてはなりません。
最低でも輸送運賃が高くなる分、割高になってしまいます。
加えて地ビールの場合、酒販店に届いてからの保管も、品質が劣化しないように冷蔵しなくてはなりません。これは、酒販店に買いに来た御客様がスグに飲みやすいように冷やしておくこととは、意味が違います。
酵母の働きを止めるため、冷蔵庫での陳列しか出来ないわけです。

一般的に「殺菌」という言葉は、本来は中に混じっているべきではない外部からの異物(菌)を殺す(殺菌)というイメージがありますが、清酒での「火入れ(加熱殺菌)」という意味は、「元から中に入っている酵母の働きを止めること」と考えて良いようです。

逆に言えば、元から中に存在しているものなのですから、濾過して取り除かない以上は、酵母の動きを止め続けていない限り活性化しますので、輸送から酒販店頭を経由して御客様の口に入るまで冷蔵し続けなければなりません。 つまりは、「生」という意味には、アセプティックなど無菌充填や濾過の方法により加熱殺菌はしていないという「生」と、元から中にある酵母の働きを冷蔵などで活性化しないようにしているだけで、未だ生きている「生」の二通りあると思ってください。

さぁ、話は「ふなくち」に戻ります。

成分未調整だから、ふなくちは刺激的!感動的!


「ふなくち」は前述した通り「搾ったままの成分未調整」ってか、「ふなくち」の言葉の意味が、搾ったお酒の出口」っていう意味ですから、当たり前の「生」で、しかも「無濾過の原酒」です。
では「無濾過生原酒」って言えば「ふなくち」と同義かと言えば、違っていて、生の原酒を無濾過で貯蔵していても「無濾過生原酒」ですが、「ふなくち」って言えば、やっぱり搾りたてですよね。

菊水さんの「ふなくち(商品名)」は、その名の通りの「ふなくち」の味を、そのまま缶に詰めているところからスタートしたから美味しいのかなぁ‥。
いずれにせよ先ず「ふなくち」があって、「搾りたて」から「無濾過」だったり「あらばしり」と表現したり、それに「原酒」かどうかなどを組み合わせて千差万別に言ってますが、加熱殺菌していなければ「生」になります。

清酒の場合は、それに「生貯蔵酒」という表現が加わりますが、これは貯蔵を「生」にしたかどうかであって、さらに言えば、秋の「ひやおろし」などの「生詰め」などに至ります。(バックナンバー 第3回参照)
つまり、できたての「ふなくち」とは、それぞれの蔵元の中でしか楽しめないと言えるでしょう。

皆さんも、今年の秋冬の仕込みシーズンには蔵元を訪れて、ぜひ味わってみてください!

地酒解体新書について


本連載は、国分グループ本社株式会社と全国の有力地酒蔵元との協力により運営して運営する「地酒蔵元会」ホームページ内に掲載されている記事を転載しております。解体新書の他にも地酒に関する様々な情報が記載されておりますので、ぜひアクセスしてみてくださいね。
※地酒解体新書は2008年に公開された記事となります。現在とは異なる表記がある場合もございますのでご了承ください。


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