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【地酒解体新書第12回】親父の晩酌とおふくろの味の関係。

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お父さんの晩酌が、味覚のきっかけをつくる。


前回に続いてB子さんの家庭の晩酌談義。

一寸整理しておきますと、B子さんのお父さんの家系は元々は広島の出で、B子さんのオジイチャンの時から前橋で開業医をやっていて、お父さん自身は生まれた時から前橋です。

亡くなったオジイチャンの母親は会津の名家からお嫁に来た方ですが、その厳格に守られた味付けが会津のものだったのかご主人に合わせて広島流であったのかは分かりません。いづれにせよ、お姑母さんはオジイチャンの晩酌の肴に苦労されたのは確かなようです。

そしてその苦労は今のお母さんに引き継がれ、「指一本酒一升」で育ったお姑母さんと土佐・高知の出身のお母さんとは意見が合うのに、晩酌の主であるお父さんは濃い味付けと肴と、甘め旨口の酒で「嗜む」飲み方が好みのようです。

実はB子さんが日本酒談義に強いのも、何より味覚が鋭いのも、この「お父さんの晩酌」が元となっています。

「じゃぁ、広島の出身者や前橋で育てば味覚が鋭いのか」と言えば、そうではなくて、例え意見や好みが違っても、「我が家の味」というのが「存在した」ことが大きいのです。

要するに「おふくろの味」ですね。

じゃあ、お袋の味って何?①


この「おふくろの味」ってのはレンジでチンでは残りません。また、十数種類のスパイスを駆使する料理上手すぎても、それはそれで別の話になってしまいます。

お酒の好みに影響する「おふくろの味」とは、一体なんなのでしょうか。

それはどうも、味噌と醤油と魚による影響が大きいようです。

以前に「四国の地酒」という表現についてお話しました。

四国という島国でありながら、地酒の味質は北四国(瀬戸内側)と高知(土佐湾側)とではまるで違い、梅錦を含めて瀬戸内側の地酒の味は対岸である広島に似て甘味旨味の濃い酒質であることが多いのに対して、南国土佐の地酒は辛口で有名です。

地酒は元々流通を前提とせず、地域地域で収斂された結果として生き残ってきたわけで、瀬戸内の白身魚に合う地酒が選別されていった結果、広島と愛媛の地酒は比較的似たような味質になり、同じ四国でも土佐の一本釣りで選ばれた地酒とは違った味質の地酒が定着したということでしょう。

つまりは昔ながらの地の食性ですね。考えてみれば、明治以後の食生活は洋風化したと言えどもたかだか100年余りですから、舌の根っこの遺伝子はおいそれとは変わらないようです。

同様に福島県も県内の地酒の飲み比べをすると、会津と中通りと浜通りでは全く違うタイプの地酒がその地域地域でメインとなっているようです。

では前橋はというと、これが「上州からっかぜ」というイメージからは想像できない甘旨が好みのようで、地元の酒屋さんである佐藤静治商店の奥さんの名言で「カカァ殿下が一緒に飲みゃぁ酒は濃くなる甘くなる」と教えられました。

じゃあ、お袋の味って何?②


要は煮物などの母親の味ってのがあって、冷凍食品ばかりで揚げ物が多ければ嗜好はサッパリ系になっていきますが、家庭の主婦が一緒に晩酌すれば自然と料理は酒の肴として手が加わり、結果的に「飲み続けられる引けの良さは必要だが、味付けは美味しく(濃く)なり甘くなる」ということのようです。良くいえば「ひと工夫の愛情!?」でしょうか。

じゃぁ味が濃ければ美味しいのか‥と言われると困るのですが、最低でも「サッパリしてりゃ良い」という好みではなくなる、ということは言えると思います。

でも土佐の高知だって奥さんも酒を良く飲む地域だけれど、酒は辛口で有名だぞって?

そうなんです。そこで再び、地域と魚と醤油の話になるんですが、これは次回。

先日、たまに早く帰ったら、小生の女房殿は「ごはん食べるの」とノタマった上、でもその割にはスグ料理は出てきたのですが、その直後に我が家の室内犬クロ(ミニチュアダックス4歳)に「可哀想だけど、今日はクロはドックフードだね」って言ってたの、あれ、何だったんだろーか。(我が家のひと工夫の愛情とは、何ぞや・・・・・・。)

地酒解体新書について


本連載は、国分グループ本社株式会社と全国の有力地酒蔵元との協力により運営して運営する「地酒蔵元会」ホームページ内に掲載されている記事を転載しております。解体新書の他にも地酒に関する様々な情報が記載されておりますので、ぜひアクセスしてみてくださいね。
※地酒解体新書は2008年に公開された記事となります。現在とは異なる表記がある場合もございますのでご了承ください。


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